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秋に想う
父親の他界後の気持ちを綴った文です。

実家の庭先に咲いた淡い色の花。父が部屋から眺められるようにと蒔いたコスモスが秋の風に揺れています。
昨年の今頃、コスモスの揺れるのを眺めながら、年老いた両親とともに行く秋の日を過ごしていたのが、つい先日のように思い出されます。
このゆったりとした時間が私はたまらなく好きでした。
今年の、父から届いた年賀状には「来る歳の善きことのみ祈りつつ 若水汲(くみ)て神棚に捧げる」と書かれていたのですが、二月の寒い日に逝ってしまいました。家族全員に看取られながらの大往生でした。九十二歳でした。
教育者として実直な人生を送り、最期まで母のことを気にかけていた父。
米寿を迎えた年の年賀状には、「激動の世を永らえてしみじみ(さんずいに心)と米寿迎えて妻と静かに」と晩年の心境を詠っていました。
父からの年賀状はもう届きません。
コスモスの花が揺らいでいます。母とたたずむ晩秋の庭先にほのかな香りが漂った気がします。父からの便りでしょうか。
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